この前眠気に勝てず尻切れトンボになった話の続き。
長編にするつもりはないですが、あと2回くらいは続きそうです。
ご覧になっている方、よろしければお付き合いくださいね。
リンク元を見たら、とある検索サイトさんから来ていらっしゃる方が多くて驚きました。
そのことよりも、このブログ(日記だろうが)が一番上にあるのにもっと驚きました。
やっぱりはてなで小説を書くのはいけないのだろうか……
それでは本編をどうぞ。
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アルマナは目を閉じ、藍色掛かった宇宙の中に浮かぶ地球を思い浮かべた。
初めて地球を見たときの感動と言うべき心の震えは、今でも容易に思い出せる。
死にも繋がる永遠の闇に、目を奪われる深い青が見えた。
白い雲が地球を覆っていて、その青が見える部分は少なかったが、まるで奥深くに
隠された宝石のように、美しく輝いていた。
いや……地球そのものが宝石のようだと、そう思ったのを覚えている。
このように思ったことの要因の、大半は憧れから来る美化だったのかもしれない。
地球と対の惑星である彼女の故郷、バルマー星は、地球に良く似ていたのだ。
ルアフから1年間の自由をもらい、宇宙へ出た時に、アルマナは遠ざかるバルマー星を見ていた。
愛すべき民達がいて、愛すべき国がある、遥かなる故郷……そこから初めて離れたとき、
勿論不安はあったのだが、そのときはそれよりもまだ見ぬ地球に思いを寄せていた。
確かにバルマー星は見ていたけど、地球を見たときほどの震えはなかった。
もう1度見ることが出来るから。帰るべき故郷であるから。使命のために帰らねばならないから。
……永遠の眠りにつくのも、この地であると分かっていたから。
だからこそ、一度きりしか見ることの叶わぬ地球に、途方もないような憧れを抱いていたのだ。
瞳を閉じた闇の中に、地球が見える。
あの頃恋焦がれた場所。そこに住む人々は、勇敢さと優しさを兼ね備える人ばかりであった。
―――まだα-ナンバーズ以外の人にはあったことがないので、他の人々は分からないが――
真の霊帝が消滅し、その後の諸処理のために、1週間、地球の大地を踏んだことがある。
そう……それと、第2のバルマー星が見つかった後、快く援助の要請を受け入れてくれた人々に挨拶するために、今から4ヶ月前に地球に赴いたのだ。
どちらもバルマーの代表者という立場であったので、自由に過ごせる時間は少なかった。
とはいえ、時間が全くなかったわけでもない。
僅かながら空いた自由な時間は、アラドやゼオラを初めとした、α―ナンバーズの
10代のメンバーに連れられて、街に遊びに行った。
帝都にいたときも、厳重な警護のなか一室にいるだけで、街に出る機会のないアルマナは、
今まで背負っていた重荷をそのときだけは捨て、被っていた仮面を外して、はしゃいでいた。
綺麗な装飾品を見て回ったり、CDショップで最近地球で流行っている歌を視聴したり、
地球の料理を食べたりと、その様子は地球の少女と何ら変わりなかった。
ただ、楽しいと思う心の隙間から、アルマナが意識せず言った一言を聞いた者が何人かいた。
「これであの方もいましたら、もっと楽しいのに……」
このセリフの後には決まってため息をついた。
このセリフを聞いた者も、あの頃アルマナがクォヴレーに向けていた視線を思い出し、ため息をついたのだった。
「テラ・フォーミングが終わったら、まず最初に地球と国交を結びましょう」
彼女以外誰もいない寝室。今日の公務は早めに終わり、戻った部屋にはまだ夕日が射しこんでいた。
アルマナは考えていたことを頭で反復するより先に言葉を口から出していた。
「長く違えた道を歩んできましたけど、彼らと私たちは祖を同じとしているのだもの、
ここでまた再び道を交わらせても、おかしくはないわ」
ここから地球までの距離も、そう遠くはないのだし……と付け足したところで、不意に心地よい睡魔が彼女を襲った。
(あの方が守ることを望んだ星……バルマーよりもあの方の故郷と言える星……
きっと、喜んで、下さいますよね………?)
開いた窓から入り込んだそよ風が、レースのカーテンを膨らませ、アルマナの頬をくすぐる。
最後の言葉は、そよ風のなかに流れて溶けていった。
何か、夢を見ていたのかもしれない。が、思い出せない。
眠りに入ったときと同じくらい、目覚めも心地が良かった。
夕日は既にアルマナの部屋から抜け出し、代わりに青白い光が彼女の顔を射していた。
窓から見える空を見上げると、夜の色が手を伸ばして随分と経っている様だった。
夕食を取らなくては。アルマナは椅子から立ち上がったが、夕食よりもひどく惹かれるものがあった。
(こんなに明るい夜は久々……今日は満月かしら?)
地球では淡く優しい黄色の月が夜に顔を出していたが、この星では青白い月が夜の世界を照らした。
(もしかすると……あそこは今日が一番綺麗かもしれませんね)
青白い光に導かれるように、アルマナはバルコニーから外に出て、ある場所へと向かった。
満月が最も輝ける場所へ。
アルマナが住む屋敷は、国の代表者が住んでいるということからか、真っ先に整備が進められた。
そんな贅沢をするわけにはいかない、と彼女は拒んだが、工事施行者は聞かなかったらしい。
その工事施工者が、粋な計らいをしてくれた。代表者という立場上、彼女の心が安らぐことは少ない。
テラ・フォーミングに取り掛かっているときは尚更で、今の彼女は忙しいことこの上ない。
少しでも彼女の心が安らぐようにと、工事施行者は屋敷の広大な庭の一角に小さな湖を作った。
月の出る夜には空を映す鏡になり、青白い月が揺らぐその光景は神秘的である。
アルマナはこの湖を甚く気に入り、少しばかり余裕があるときにはこの湖に映る空を見下ろして、心を癒していた。
ただ、満月が湖に映る様子はまだ見たことがなかった。
上弦の月や三日月、満月が少しばかり欠けた十六夜のときが十分綺麗であったのだから、満月は最も美しく輝くに違いない。
アルマナは、跳ねるように走りながら湖へと向かった。
走り始めて3分ばかり。屋敷からやや離れた場所にある湖が見えてきた。
まだ湖には遠いが、それでも、満月が映り込んだ湖の美しさが分かった。
新円に近い満月が、湖の波に揺らぐ。周りにある星も合わせて揺れる。
今日は何が見えるのだろうか………アルマナの期待が胸を膨らませたそのときだった。
青白い光に反射する、白銀色が瞳に入り込んだのは。
静かに湖の前に佇む、大人になりかけた容姿の少年。
その姿はすぐに、アルマナの瞳に焼きついた。
そして、それは、彼女が会いたいと痛すぎるほど願い続けてきた人の姿だった。
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