勢いほとんど、構想は隠し味程度に書いてきたこのお話も今回で最後……のはず。
処女作には、その人のその作品(あるいはカップリングなど)に対するイメージの全てが詰っているといいます。
作家は処女作に向かって成熟するとも言われます。
回りくどい言い方をしましたが、私のクォヴレー×アルマナの基本はこんな感じだということです。
……矛盾点があるのも仕様なのかな(汗)
それでは本編どうぞ。
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青白い月が満ち足りて、妖しげでもあり聖上でもある光で大地を照らす。
日中、地球に対する太陽に値する、この星の恒星が射す光と、月光の性質は違う。
日中の光は直線的である。光の下にいる者を射抜くように照らしつける。
だが、直線的である故に、応用性を持たない光でもある。一度影に入ってしまえば射すことはない。
こちらが貫かれるような、時に疎ましいと感じる光の矢も、影で防げばあっけなく折れた。
月光は、曲線的だ。下にいる者全てを柔らかく包み込む。
そしてひどく曖昧だ。月光の下では、どこからが影でどこからが光なのかが、
はっきりと引かれた境界線が存在しない。
どこまでも月光なのかもしれないし、どこまでも影なのかもしれない。
だから、月光から逃れることは難しい。
日光は、浴び続ければ死に至らせしめる病を患う可能性がある。
月光は、死には至らないものの、時折、妖しげな光で不可解な現象を起こすことがある。
現象が良いことか悪いことかは起きてみないことには分からない。
アルマナは、今回は月光に感謝することにした。
悲願を叶えてくれたのだから。
月光が白銀の髪に反射している。
鏡のように照らし返すその光は、自分を照らしているようだ、とアルマナは思った。
………都合のいい解釈かもしれない。
そんなことは分かっているけど、だけどそう思いたかった。
何も告げられず、告げることも出来ずに旅立ってしまった想い人。
無愛想で不器用で、優しさはあるのだろうが、それをはっきりと示すのが苦手な彼。
最後までその心がどこに向かっているのか計りかねたあの人。
戦いが終わるまでに、自らが心惹かれていることをこの口で、言葉で伝えられたなら、
こんなにも胸が締め付けられる思いをしなくても済んだだろう。
是であれば、それを希望として抱き、臆することなく進めた。
否であれば、彼には私と同じ大きな使命があるからと割り切ることが出来た。
答えが否であった時、立ち直るまでどれだけの時間を要するのか分からないが、それでも今のように
道が分からなくなったときにすすり泣くことはなかったのではないか。
(――――そんなことはどうでもいいの)
アルマナは視線の中にクォヴレーをしっかりと捉え、逃がさないように見つめ続けながら歩き出した。
いつのまにか胸の前には彼女の両手が重なり組まれており、震えていた。
道をゆっくりと歩む足も小刻みに震えている。そのためか、足取りは不安定である。
彼女自身も自分が震えているのがよく分かっていた。しかし、震えとはいつでも自分の意志で
止めることは困難なものである。
自分の身体に叱咤しようとも、その効果は知れたものだ。
それに、今は湖の前に佇む彼のもとへ行く方が大切だ。
アルマナは自分の意志に反し細かに揺れる身体を動かして、歩き続けた。
風波に揺らぐ水鏡。
新円を描く満月を映し、夜空の黒幕に光る星々を映し、自分自身の姿を映している。
普段は月と星空だけを映していたのだろうが、そこにサブリミナルのように異質な自分の姿が映りこんでいる。
普段は、ここからやや離れた場所にある屋敷の主を映しているのだろう。
まだ荒れたこの星の、少ない瞳の一つのこの湖とて、見知らぬ男を映したいわけではあるまい。
いつまでも安定せずに風景を揺らし続ける水鏡。
一つとして同じ風景はなく、同じ風景を作り出すことは出来ない万華鏡のような湖は、
彼の目から見ても美しく、飽きることもなかった。
テラフォーミングがまだ完全には終わっておらず、試験も兼ねて暫定的に人が住んでいる
この星では、音という音がしない。
聞こえるのは、風の音、風に揺れ擦れる葉の音だけである。
誰かが地面を蹴ったことは、すぐに分かった。
視界を、水面から音が聞こえた前方へ移す。
予想通りの人物が、湖を挟んだ彼の正面にいた。彼女の身体はふるふると震え、
その瞳は、一度瞬きをすればたちまち溢れ出しそうな涙で満たされている。
吸い込まれそうな蒼の瞳は、2人の間を隔てる小さな湖と同じものを映していた。
青白い月、瞬く星々、そして自分自身の姿。
彼女にとって、その瞳に映る自分の姿は異質なものではないと信じたい。
――――待っている、彼女が、言葉を口にすることを。
「アルマナ………」
「―――っ、本当にあなたですのね、クォヴレー………っ!」
瞳が閉じられ、それと同時に大粒の涙がほろほろと零れ始めた。
クォヴレーは柔らかく微笑むと、湖の周りを迂回して、その間も自分から決して視線を外さない
アルマナのもとへ歩み寄った。
彼が彼女の隣に立つより前に、彼女の方が歩く彼に走り寄って。
泣き顔で両腕を開いて、もう二度と、離れたくないと言わんばかりに、彼の身体に抱きついた。
クォヴレーの身体に、アルマナの身体の重みが伝わる。暖かで嬉しい重みだ。
自らの胸にすがり付いて泣きじゃくるアルマナの背をぽんぽんと叩きながら、
クォヴレーは穏やかに笑みを浮かべる。
アルマナはその笑顔に気づかず、止まらない涙を流しつづけていた。
抱き合った姿勢のまま、どれくらい立ったのか。
泣くだけ泣いて少しだけ平静を取り戻したアルマナが、彼の身体に絡みつけた腕を解いた。
そして左腕はクォヴレーの右腕を強く掴み、右手は彼の胸に軽く置く。
涙はないが、相変わらず自分を捕らえて離そうとしない瞳、月明かりの下で薄暗いが、
それでもはっきりと分かる紅潮した頬でクォヴレーを見上げ、口を開いた。
「クォヴレー……わ、私、あなたに言わなければならないことがあるのです」
声が震えている。枯れたと思った涙がまたアルマナの瞳を潤し始めた。
その瞳が、熱を帯びる。逸らしたいと思っているだろうが、逸らせない瞳。
なかなか言い出すことが出来ず、しばし間が空く。声は出掛かるが、言葉が出てこない。
………その様子で、彼女が自分に何を伝えたいか分かってしまった。
自分はこんな人間だっただろうかと、軽くため息をつくと、アルマナが言葉を紡ぐ前に
クォヴレーが口を開いた。
「いい」
「……え?」
何がいいのか、分からずに、アルマナは先ほどまでとは違う視線をクォヴレーに向けた。
「お前が言いたいことが分かったからいいと言っているんだ」
この言葉を聞いて、彼女がどんな反応をするか。それは別にどうでもよかった。
意識の外でアルマナが何か言っているのが分かるが、内容はよく分からない。
意思とは別のところで身体が動き出した。
掴まれていた右腕を無理矢理振り払う。アルマナはそこで絶望の表情を見せた。
宙で静止する彼女の左腕を乱暴に掴み、引き寄せた。
突然の行動にアルマナが呆気に取られているうちに、彼女の腰に左腕を回す。
掴んだ彼女の左腕を離し、空いた右腕で彼女の顎を都合のいい高さまで上げると、
クォヴレーはアルマナの唇を奪うように重ねた。
(終)
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書き足すかもしれませんが、お終いです。多分書き足すな、これ……。
長い。最後しかベタベタしてない!説明的で比喩表現が下手なのに多用していて、
どこか理屈っぽい文章。読みにくいことこの上ないと思いますが、
ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。
感想をコメント欄に書き込んで下さると嬉しいです、HP回復します。
この場でちゃっちゃと書き足し書きたいですが、
肩が痛くなってきたのでもう寝ます。
ちなみに書き足しは後日談のようなものです。
それではここまで読んで下さってありがとう御座いました!
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