さあいい加減終わりにしましょう。
もうとっくに秋は過ぎ去ってしまいました。たしかこの小説書き始めたのは先々月。
構想は練っているけど実行に移さない悪い例ですね。みなさん真似しないようにしましょう。
それでは本編どうぞ。
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「クレープ…………?」
何となく、語尾を上げてアルマナが口にした単語を繰り返した。
クレープについては知っている。小麦粉と卵と牛乳、それに砂糖を加えたほんのり甘い生地の上に
生クリームや苺やバナナなどの甘い果実をトッピングし、生地を折り畳んで食べる菓子。
多少の違いはあれど、どの平行世界でも共通している食べ物であり、女性や子供が好んで食べるもの。
人通りの多い街角に、調理機械を乗せた小さめのワゴンが止まったならば、10分もしないうちに行列ができる。
甘いものは嫌いではないが好きではないクォヴレーが、興味を抱いて行列の最後尾に並んだ時は、甘くないクレープを勧められた。
ミートクレープという、牛ひき肉と玉ねぎ、マッシュルームが生地に巻かれてある変り種のクレープだ。
店の主は、男性だから甘いものが苦手だろうという憶測から勧めたのであろう。小腹が空いていた彼には大して腹に溜まりそうにない甘いクレープよりも、ひき肉が詰ったこのクレープの方が都合が良かった。
クレープを食べながら歩く人々は皆、幸せそうに笑っていた。
「駄目………ですか?」
頭1つ分大きなクォヴレーの目を、懇願する上目遣いでアルマナは見つめた。
平行世界での出来事を頭の中に映し出してたクォヴレーは、珍しくアルマナへの返事を遅らせてしまった。
普段はすぐに返ってくる返事が返って来ないのを、躊躇いと取ったのか、アルマナは少しだけ落ち込んだ顔をしていた。
「いや……そんなことはない。
アルマナ、相変わらず甘いものが好きなんだな」
「…え、ええ!?そうですか!?」
不意に弱点を突かれたような気がして、アルマナは慌てふためく。
ただ甘いものが好きだと言い当てただけなのに、過ぎるほど慌てるアルマナが可愛らしくておかしくて、
クォヴレーは、くっくっ、と出来るだけ声を抑えながら笑った。
「オレがαナンバーズにいて、お前も艦に滞在していた頃、コーヒーを飲もうとして諦めてただろう?」
まだこの世界での戦いが続いていた頃。
バルマー星が流星雨によって崩壊し、バルマーの民は一時的にαナンバーズと行動をともにしていた時期があった。
クォヴレーがアルマナを人質に取ったり、アルマナが命を狙われたためにαナンバーズの艦に密航したりなど、
様々な事件を経て、アルマナは、運命という枷をはめられつつもそれに抗うクォヴレーに心惹かれていた。
恋をし始めた頃というのは、相手との親近感を感じたい、とか、相手との共通点を見つけたい、などと思うものであり、
この時、これが恋という感情なのか分かっていなかった世間知らずの姫様でもそれは例外ではない。
食堂の機械でインスタントコーヒーを頼んだクォヴレーに、「私にも同じものをお願いします」と言ってしまったのが事の始まりである。
地球ではポピュラーである飲み物でも、バルマーの人間であるアルマナにとっては未知の飲み物で
あったが、
深い黒に近い茶色の液体から発せられる匂いはとてもいい香ばしい良い匂いがし、クォヴレーはそれを飲んでほっと一息ついていたので、これは美味しい飲み物なのだと彼女は認識した。
どんな味がするのだろうと、期待しながら口をつけたアルマナの表情が一変するのは数秒後。
辛そうな顔をしているアルマナにクォヴレーは大丈夫か、と声を掛けたが、大丈夫です、の一点張り。
顔色の冴えないアルマナを見て、ルリアが怒鳴り込んできたのは10分後のことであった。
その後、アルマナはゼオラに勧められたケーキという菓子で口直しをしたのだが、こちらは大変気に入ったらしく、新しいバルマーの街には是非ケーキ屋を作りたいと話している。
「だって……あれから皆さんに地球の街並を案内して頂いたときに、甘くて美味しいものを
いくつも紹介して頂いたんですもの……どれも美味しいものばかりでした。
だけど、クレープはまだ食べたことがなくて……」
「分かった、別に悪いと言っている訳じゃない。
あそこにワゴンが来ているから、そこで好きなクレープを選ぶといい」
クォヴレーが指差す先には白いワゴンが停まっている。
えんじ色のイタリック体で描かれているロゴは、確か有名なクレープの店のものだったはずだ。
「ありがとう」
一言だが、十分に感謝の気持ちが込められた言葉とともに、アルマナがクォヴレーに笑いかけた。
行きましょうクォヴレーと、彼の腕を組んでアルマナがワゴンへと歩き始める。
腕を組まれたクォヴレーは、しばらくアルマナの顔を正視することが出来なかった。
辛い時間はなかなか過ぎないのに、楽しい時間は瞬く暇もなく過ぎ去ってしまう。
日はとっぷりと暮れ、夜の藍色が空全体を覆っている。けれど今日はそれほど暗い夜ではない。
大きな満月が空高く昇り、柔らかな光で地上を照らしている。
クォヴレーとアルマナは今日、待ち合わせをした公園に戻っていた。
アルマナの手には、大きい箱や平たい箱、小さいが細やかで美しい装飾がなされている箱が抱えられている。
「こんなによかったのですか……?あなたはこれから平行世界を回らなくてはいけないのに……」
「気にするな、これも埋め合わせの1つだ。それに、これから平行世界を回るからこそ、だ。
………この滞在が終われば、またしばらく会えなくなるからな」
またしばらく会えなくなる。
想いは通じているのに、会いたいときに会えない、この事実は受け入れなければならないものだ。
クォヴレーは平行世界を守るために、アルマナはバルマーを支えるために。
いつか、何もかもが終わって、一緒になれる日が来る――――その日が来ることを願いながら、また会えない日々がやってくる。
分かってはいるけど、別れは辛い。また会えると分かっていても。
しばし、沈黙が続いたが、これを破ったのはアルマナだった。
「まだ、今日のお礼、していませんでしたね」
「礼はいい、気にするなと言っただろう」
「いえ、私がしたいんです、させてください」
「………分かった」
座っていたベンチから立ち上がり、15歩ほど前に進む。
「私、巫女であった頃は舞を踊っていたのです。
あなたの使命も、私の使命も、一日でも早く果たすことが出来るように願って踊ります」
ひらり、ふわり、くるり、ひらり。
地球の満月に照らされながら、アルマナが舞い踊る。
巫女の服ではなく、地球の少女が着るものを着て踊っているのに、
また、ここは舞台などではなく、ただの公園に過ぎないのに、彼女の舞いは十分映えている。
何事にも、その道に長けた名手である場合、時と場合は選ばないという。
巫女は舞を踊り願いをこめるものと聞いていたが、それはバルマーのズフィルードの巫女でも同じなのだろう。
そして、それゆえアルマナは舞いの名手になったのだろう。
あまり芸術等の分野に詳しくないクォヴレーでも、アルマナの舞いからそれを知ることが出来た。
願い、望み、嬉しさ、使命、別れ、哀しみ、そして再会。
アルマナの踊りから、堪えきれずに溢れ出した感情が伝わってくる。
短い時間でも再会できることの喜び、果たさねばならぬ使命、ひと時でも離れなければいけない哀しみ。
(まるで、月のようだ)
月は満ち、そして欠け、それを繰り返す。
現在の自身と彼女の状況は、月の満ち欠けに似ている。
喜びに満ちたと思えば欠けていく。哀しみや辛みがなくなったと思えば満ちていく。
けれど、自分たちはそれを繰り返すだけの不安定な存在ではない。
今はまだ、だけどいつか。
望んだ未来が来ることを祈って、クォヴレーが空に浮かぶ満月を見上げた。
(終)
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短くするが目標だったのに、前より長くなりました。
いちゃいちゃ目指したのに、シリアスになりました。
目標が達成できません。めそめそ。
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