久しぶりの幻水小説。
この前書いたものが、嬉しい終わり方ではなく、書いてる当人としても
すっきりする終わり方じゃないなと思ったので、リベンジ。
だらだら書かずに分かりやすく、短く書くのが最近の目標です。
※言うまでもなく王子×リオンです
王子の名前はファルーシュ。女王騎士エンド後の話です。
※気持ちこの前の続き。
リオンが王子を名前で呼ぼうと頑張っているのは、そのこともありますが、
もう”王子”じゃないからです。
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沈み込みそうなほど柔らかく、肌への触れ心地がひどくいいベットや、
羽毛を中に敷き詰めた、重量のわりに暖かで、冷えた空気から自らの身体を守ってくれる掛け布団。
太陽がじわじわと褐色に肌を焼き付け、水分を含んだ生暖かな風が精気ややる気などの色んな気を奪い去っていく
この季節には不必要なもので、王兄殿下の部屋からそういった、夜の防寒のための寝具は片付けられていた。
その代わり、身体が沈みはしない程度の硬さのベットや、薄めの毛布が何枚か用意されていた。
冬や春先に手放せない、どこまでも暖かく身を包んでくれる寝具は、衣擦れの音がよくする。
彼のかつての護衛、大切な人はその音を遠く離れたドアを隔てて聞き、彼が目覚めたことを知るのだ。
彼女はいつでも、彼が目覚めて、意識がはっきりしてくる10分ほど後に、「失礼します」と部屋の戸を開け、
挨拶をし、今日の予定などを述べ、確認する。
以前は長く伸ばした髪を細かく、バランスが良い、綺麗な三つ編みに編んでくれたのだけど、
その髪の襟足より下を切ってから、その習慣はなくなってしまった。
あの空気が好きだったのに。
自分の後ろに立ち、髪を結う彼女の手が、僅かに首に触れる、あの瞬間がとても好きだったのに、と多少惜しいとは思ったが、
髪を切ったのはこの国を守っていくという決意の証、後悔はしていない。
衣擦れの音は、彼女にとって、自分の起床の合図。
……多分、気の動きなどの、武術の鍛錬を積みに積んだものだけが分かる、特別な感覚も手伝っているのだろうが、
この音が手がかりになっているのは間違いない。
この音を抑えることが出来れば、彼女に内緒で出かけることが出来る。
彼女が護衛についてから、もう随分経ち、彼女が隣りにいなければ、落ち着かない。
彼にとっても、彼女にとっても、お互いが隣りにいることは、最早当たり前のことであり、
そのことを考えれば、彼女に内緒で出かけるなど、考えられることではないのだが、
これは彼女に秘密しなければ出来ないことであり、何より彼女の驚く顔が見たかった。
だから、ベットから出るときも、寝間着から着替えるときも、出来る限り音を立てないように細心の注意を払い、
歩くときも自分の部屋だというのに、盗みに入った泥棒のようにそろり、そろりと足を浮かせるように歩いた。
リオンには及ばないが、本格的な武術の訓練は受け、女王騎士長の職についているのだから、
ある程度気配を消して移動することも出来た。まさかそれをこんな場面で使うことになるとは思わなかったけど。
それくらい、ファルーシュは本気だった。
「おう…じゃなかった、ファルーシュ様、起きていらっしゃるんですか?」
部屋の中の空気がいつもと違うことに、リオンも気づいたようだ。
自分自身で計画を練って、ここまで来たのだから、彼女に気づかれても決行するしかない。
「ごめん、リオン!」
起きているのかと尋ねたのに、何故か謝罪の声が戸の向こうから聞こえてくる。
そして、今まで張り詰めたように動かなかった空気が、急に動き出した。
これは何事だ。
「?! お、王子?!」
ようやく事態に気づいたリオンが、扉を開けると、
扉からまっすぐ走ったところにある窓に、いつの間にか括りつけたロープを掴んで、
外へ出ようとしているファルーシュの顔が見えた。
もう身体は窓の外、「ごめんねー」と手を振りながら、ファルーシュは器用にロープを伝い、
城の外へと出て行った。
「お、王子ーーーーーー!!」
もう王子ではないファルーシュのことを、慣れないせいか王子と呼びながら、リオンは朝の太陽宮の中、
太陽宮どころか、城下町の人まで起きるのではないかという声量で叫んだ。
つづく。
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